出前浜から解釈する一騎と総士の距離感と精神安定

 

 

※これは有識者による論文ではありません。

※すべて現実の出前浜と一騎のFORTUNESを同時に浴びたせいで心を乱されたオタクの妄言です。

※冗談の通じる方のみ読むことができます。

 

 

▼現実の出前浜を見て狂った経緯

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一騎が総士に食後のコーヒーを渡し、仕事を終えたというように横たわる。

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この時、二人の間には水筒が置かれている。

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適度に間隔が保たれている。

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これが別シーンを挟み、次のカットでこうなる。

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先程の水筒が片付けられ、二人を隔てるものがなくなり、距離が縮まっている。

少なくともこのアングルから見る限りは、二人の身体にほとんど隙間がないように見える。

 

二人にとっては当たり前の、いつもの距離感(※)である。

 

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~余談~

EXODUSのこの、我々の感覚からすると近いのではないか?と感じてしまう二人の距離感、総士が帰還してからずっとくっついて過ごしいたのであろうことを、嫌というほど訴えてくる。

HAE~EXODUS間の二人がどのように過ごしていたかは公式では描かれていないにも関わらず、わからせてくる。

EXODUS一発目の一騎の「総士、早いな」の声色で、もう真矢に話をしろと言われ、総士の部屋でぎこちなく話をしていた頃の二人ではないことをわからせてくる。

二世代下の後輩である御門零央に「それより、お客さんですよ」と含みを持たせた感じで言わせる関係は一体なんなのか。

島の人々に、この二人の関係はどういう認識をされていたのだろうか。

おそらく後輩達に「一騎先輩は総士先輩が来ると機嫌がよくなる」と認識されていたし、「最近総士先輩がぜんぜん来ていなくてあの人機嫌悪いから近付かないでおこう」などと思われていたに違いない。

 

ここまで言っておいてなんだが、

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関係が拗れて互いに腫れ物を抱えてる時ですら、総士が(※)本気を出せばこれである。

(※おそらくこの時の一騎が自分から総士にここまで近付くのは厳しい。が、この距離でしっかり総士の目を見て話せるあたり、そういうことである。)

 

疎遠になったとはいえ、物心ついたころから当たり前のように毎日一緒に過ごしていたらこうなるものなのだろうか。

~余談終~

 

 

 

とにかく弁当箱と水筒を片付けてから、他に誰もいない浜辺で風と波の音を聞き、「僕らの時間」の終わりが近付いていることを感じつつ、夜空を見上げて語り合うことにしたのだろう。

 

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それにしても、広い浜でそんなに密着する必要があるだろうか。

水筒のスペースが空いたからといってその分距離を詰める必要があるだろうか。

 

疑問はさておき、ここで注目すべき点がある。

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よく見ると一騎の右膝が立っている。

 

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そう、ここから全く同じ姿勢をとっている。

 

この姿勢のまま、左隣に置いてある岡持ちに弁当箱と水筒をしまうのは恐らく物理的に困難である。

一度起き上がって片付けてから全く同じ姿勢で横たわることも考えられなくはないが、若干不自然な気がする。

というか、いくら一騎が総士に対して献身的であるとはいえ、彼は辛い気持ちになって逃げるようにここに来たのであり、総士の顔を見て世話を焼いて、話を聞いてもらって落ち着き、一息ついて寝転んでいるのだから、この場合総士が食器を片付けるのが自然な流れである

 

別に総士が片付けしたら偉いとか、そういうことをここで言いたいのではない。

総士が片付けをした、という仮定から導ける答えがある。

 

①一騎は横たわってから姿勢を変えていない

総士が後片付けをした

 =総士が一度その場を離れて一騎の左隣にある岡持ちに食器をしまい、元の位置に戻って寝転んだ

 

これらの仮定が事実だとするとき、

 

 

総士のほうが距離を詰めて寝たことになる。

 

総士から一騎の身体にくっつきに行ったことになる。

 

 

 

 

※5年前

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EXODUSの距離感、19のそれなりの体躯の男二人で何ともない顔でこの一騎の座っているソファに詰めて座っていそうで恐ろしくなってくる。

でもEXODUSの一騎なら自分の家みたいな顔をして勝手にベッドでくつろいで総士が自分の料理を食べているのを見ているうちに気分がよくなって寝落ちしていそうな気もする。ここでお得意のため息をつく総士である。※フリー素材です。

 

 

少なくともこの時の総士は嫌というほどに分かっているはずである。

自分がそばにいると一騎が喜ぶことを。

自分が離れると不安定になることを。

一騎が初めてファフナーに乗った時からずっと、一騎が見られたくないと思うような気持ちまで、彼の意思とは関係なく、一方的に見てきてしまったはずなのである。敵の側へ行き、一騎と二年間クロッシングで繋がり続けていた間にも、彼の自分に対する気持ちをこれでもかというほど、隅から隅まで見てしまったはずなのである。

一騎の暗い海を見て、総士は何を思ったのか。

 

参考までに、以下、小説版で初めて二人がクロッシングして戦闘を経験した後の描写である。

 

一騎はそのとき、さらに暗く深い海を感じていた。

自分のものではない。一騎と思考を共有している総士が、わずかに、その共有範囲を広げたのだ。総士の胸の内――おそらく誰も見たことがない心を、一騎は見た。

(中略)

その暗い心を、総士はあえて一騎に見せたのだ。

一騎を安心させるため――醜い心を抱いているのは、お前だけではないと告げるため。

 (『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』第2章 行く先は闇でも)

 

一騎が初めての戦闘を経て、クロッシングを通して総士に醜い心を「見られた――」と思った後、総士も一騎に自分の暗く深い海を見せる。

この後、総士は一騎に「お前が、いてくれて、ありがとう」と告げ、一騎が返答する前に一騎の意識を喪失させる。

 

それは、たとえば疲れ果てた一騎の肩を、総士が優しく抱きとめるようなものだっただろう

(『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』第2章 行く先は闇でも)

 

こうして一騎の醜い心(総士を傷つけ、逃げ、自分は平気なのだと偽ってきたことに対する負い目)に触れた時も、総士はそれを赦すように、自分の醜い部分を見せることで一騎に寄り添った。それは一騎にとって救いであり、総士にとって甘えでもあっただろう。

二人は戦闘を通して何度も互いの暗く深い海を共有し、絆を深めてきたのである。

 

自分から寄り添いに行ったとすれば、一騎が傷心してすがるように自分のところに来たのを分かっていて、安心させようとして距離を詰めた、それ以外の可能性が考えられない。

そしてそれは恐らく彼にとっては当然の、無意識下の行動である。

 

 

この時、あんなにずっと自分なんていなくなればいいと思っていた一騎が生きることに執着して髪を伸ばしている。

自分の命を守りたくなっている。

一方でパイロットをやめてどこにいればいいか分からなくなっている。

かといって何かを始めてやり残したことになるのが嫌で何も出来ない。

 総士がいないと「なぜまだ生きていると問いかけるだけ無意味」やら「今更この身に未練などない」やら、自分の命をすぐ投げ出してしまいたくなるのに、総士がそばにいると自分の命を守りたくなる。死に対して怯える。

 

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「回復の可能性はある。悲観するな」

「していないさ。あと三年。それだけあれば覚悟だって出来る」

(EXODUS第1話、総士と一騎の会話)

 

この言い回しからすると悲観はしていなくても恐らくこの時点で死に対する覚悟はできてない。

もう総士に置いて行かれずに済むと考えると気が楽だが、離れるのはつらい。総士のいるところにいたい。

 

死に怯えるとは言ったが、彼はいつも生や死に対してというよりは、根本的には総士と離れることに対して何よりも怯えているように見える。

基本的に「総士が行くなら俺も行く」精神であるがゆえ、極論を言うと「総士が生きるなら俺も生きる」し、「総士が死ぬなら俺も死ぬ」のである。

 

「恐ろしくはないのか、お前独りで……」

「俺が戦っている時、システムの中にはお前がいる。怖いと思う必要もない」

「お前にとって、俺は神様か」

「似たようなものかな」

「よしてくれ、僕だって全能ではないんだ」

(ドラマCD『NO WHERE』より、総士と一騎の電話)

 

EXODUSでの挙動を見るに、おそらく総士はこの頃から変わらず、ずっと一騎にとっての唯一神であり、絶対神で居続けている。

現に今もなお、「地平線の彼方で何度でも会おう」と言った総士の言葉を信じ続け、総士に会いに行こうとしている。

たった一人の神様(信じるもの)は、確かに一騎の記憶の中には永遠に存在し続けるが、もう一騎の存在している世界には、彼という存在は居ない。前のようにクロッシングすることさえもできない。信じるものを失うとどうなるか。心を失う。

 

「一騎くんは、他の皆、いなくてもいいの?」

「ああ、あの機体なら、俺独りでも……」

「皆城くんが居なくても?」

総士が……?いや、それは……」

「ほら、やっぱりそうじゃない」

(ドラマCD『NO WHERE』より、真矢と一騎の電話)

 

そして今は一騎自身が全能の機体を産み出し、神の如き存在になってしまった。総士と二人で背負って共有していた、総士のために一緒に背負いたかった、総士と一緒だから背負えたものが、現状一騎ひとりに降りかかっている状態である。(こそうしが一騎を見て後を追った今、一騎にとってこそうしが、こそうしが一騎にとってどういう存在になっていくかが問題となる。)

 

総士を見送ってから5年。無印最終話~HAEの2倍以上の時間が過ぎている。

限界点など、とうに超えているだろう。

今度は一騎が「お前とひとつになれる場所に還りたい」のである。こそうしという彼から託された希望のために、なんとか頑張っているが、甲洋と操が止めなければ行ってしまうくらいには限界がきている。

 

 

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「待て、総士、俺も……」

「未来へ導け、一騎。そして互いの祝福の彼方で会おう。何度でも」

「ああ……総士……。必ず……」

(EXODUS第26話、一騎と総士の会話)

 

EXODUS最終話で総士を見送る時も、「総士が行くなら俺も行く」精神で一緒に存在と無の地平線を越えようとしたが、同じく甲洋と操に止められている。それでも笑顔で送り出すことができたのは、総士の「未来に導け」という言葉に対して「俺がやる、お前が望むなら」精神が発動したからである。だが今となっては、それは一騎を離さない呪いのようなものになった。

 

BEYOND第七話アキレスザルヴァートル化の後、力を使い果たしやっと総士と会えると思った。しかしまだそれは許されなかった。第二次L計画でこそうしの戦う姿を見て、こそうしが総士を否定するのを見て、向こう側に行きかけたこそうしを引き留め、その向こうにまだかすかに残る総士の姿を見て、もう少しがんばるよ、と寂しそうに微笑む。あれは最後の別れの挨拶だったのだろうか。一騎が総士に対して気持ちに区切りをつけられるなんて時が果たして来るのだろうか。心を失ってしまうのとどちらが先だろうか。

総士が託した未来とはなんなのか。いつになったら終わりが来るのか。一騎は総士に再び巡り会うことができるのか。

死んでもなお一騎に絡み付いて離さない男、皆城総士(先代)である。

 

 

とにかく寝ても覚めても皆城総士が人生、苦しみを与えるのも惑わすのも安らぎをくれるのも導くのも皆城総士であり、それでいて皆城総士という存在が支えにするにはあまりにも不安定であるがゆえに、いつも危なっかしい状態の精神を抱えがちな一騎である。

 

出前のシーンではそんな危うい精神を、総士のために料理を作って与え、寄り添うことで安定させている。

 

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今、この総士がいない世界で一騎がまだ生きていることが奇跡だと思えてくる。

 

 

 

では、総士のほうはどうだろうか。

総士は言うまでもなく、一騎から同化を拒絶されたことにより、ひとりの人間としての存在を与えられた。言うなれば一騎が総士にとって第二の母親なのである。

そして一騎に与えられた傷を、自分が自分である証として神聖視している。敵の側から還ってきた時、総士は左目の視力を取り戻したが、あえて傷を残したままにした。

一騎の「(総士は神様と)似たようなもんかな」に対し「よしてくれ」とは言っていたが、総士も表には出さないだけであって、たいがいである。

 

自分を与えてくれた存在が、こんなにも自分のせいで心をかき乱され、死にたいと思ったり、狂乱状態になったり、生きたいと思ったり、すがり付いてくるのは、一体どういう気分なのだろう。そんな一騎のことを、どう思っていたのか。

 

総士は一騎がいなくなるとどうなるか。

一騎を傍に置くことによって、何を得るのか。

 

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「ただあいつの場合、君という存在が近くにいることで精神を安定させていたのだろう」

「安定したがっていたのは、僕のほうです。一騎もそれが分かっていたから……」

(無印第12話、史彦と総士の会話)

 

 一騎が何も言わず島を出た時の総士である。

「安定したがっていた」

自分のことを語っているのに、この、第三者のような言い回しが総士らしい。

「安定したかった」ではなく「安定したがっていた」と、やや自嘲気味なニュアンスで語る。

一騎が自分の元から離れて、客観的に自覚したのである。

一騎に自分に傷をつけ、一騎が囚人としての苦しい日々を送り始めたあの日から、

一騎は自分から決して離れることはないと何の疑いもなく信じていた自分を。

本当は感謝しているにもかかわらず、それを黙って5年もの間、罪に囚われている彼を檻の中に閉じ込めて、その時が来るまで見続けていた自分を。

自分に呪われている一騎を見て、安心している自分を。

一騎に甘えたがっている自分を。

一騎だけが自分の暗く深い海を理解してくれると信じて疑わなかった自分を。

そして一騎が離れて動揺している自分を。

 

 

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「戦いから逃げたいと言っていたか?それとも、僕から逃げたいと言っていたか?」

(無印第11話、真矢と総士の会話)

 

そんな後ろめたさを感じる総士をよそに、実際、一騎が島を出た理由は、総士のことが嫌になったからではなかった。むしろ、総士への献身からくる行動であった。

島を出た時点での一騎は、総士が自分をそばに置いて安定したがっているなんて、ついぞ考えたことはなかっただろう。この時点での一騎は、「総士は自分を憎んでいるからファフナーに乗って戦って死ねと言っている」と解釈している。

島を巻きこんだ、あまりにも壮大なすれ違いである。

そんな疑心を抱えていても、一騎は「外の世界を見たら総士のことが分かるかもしれない」と思い、島を出る決意をした。自分たちよりもファフナーのことが大事だと言われても、一騎は総士を諦めなかった。 

 

 

 

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一騎が島に帰ってきて、「少しだけ分かった気がする。お前が苦しんでいたことが」と言葉をかけられたとき、総士は涙を流した。後にも先にも、総士が涙を流したのはこのシーンだけである。敵の側から帰還して再会した時ですら、潤んでいたものの、涙は流さなかった。

 

しかし総士、この後一騎が島を出たことをかなり根に持っている様子である。

 

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「ではお前が勝ったら、勝手に島を出たことを許してやろう」

「お前、まだ怒ってるのか?」

(無印第18話より、総士と一騎の会話)

 

「どうした、また島を出たくなったか」

「お前……まだ怒ってるのか?」

(ドラマCD『NO WHERE』より、総士と一騎の電話)

 

とはいえこの総士、どこか嬉しそうに、一騎をからかうように蒸し返してくる。

一騎が元鞘に収まってくれたのが嬉しいのだろうか。

対して鈍感な一騎は真面目に不安そうにしているが、声色的には「しつこいな、こいつ……」程度の調子に聞こえるので、安心して見ていられる。

 

トラウマになっているのだろうか。無意識下で、一騎がまた島を出て行くことを恐れて彼の無茶なわがままを聞き入れたりもしてしまう。

 

「一騎が、いつまた島を出て行ってしまうか、不安なのかな。総士は」

「だから、僕は一騎の言う通りにしようとしている……。そうなのか、乙姫」

「心が少しだけ前に進んだんだよ、総士

 一騎も総士が自分を分かろうとしてくれてるのが、嬉しいだけ」

(ドラマCD『NO WHERE』より、乙姫と総士の電話)

 

もうここまでくると離れられない。

 

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「相手のために自分はこうありたいという、より上位の自己意識が、一騎くんと総士くんの間で、強く働いています。恐らく、それが最大の原因かと思われます」

(無印第22話、遠見先生)

 

後半にかけて、積極的な自己否定を抱えていた二人が、互いの存在を拠り所として絶対的な自己肯定に辿り着いていく様子は、本編の通りである。

 

さて、一騎ほど表面に表さないものの、総士もまた同様に、一騎に対して大きな感情を抱えており、彼と離れることを恐れていることが分かる。むしろ表に出ているぶん、一騎の方が幾分か健全なのかもしれない。一騎の感情は純粋過ぎるが故に、一歩間違えると狂気になり得る危うさを孕んでいるが、総士の感情はどこか歪で、また違った危うさを孕んでいると感じるのは気のせいだろうか。

 

ジークフリードシステムの中で、総士は一騎の心をすべて読めてしまうが、一騎の方から総士の気持ちは全部は読めない。

一騎は総士の自分に対する気持ちを何処まで知っていたのだろうか。

 

二人とも性格上、感情を抱え込みがちなタイプである故、本編からは互いをどう思っており、それをどこまで理解しているのか、決定的な描写はなく、こうして言動から推察するしかないのが歯痒いところである。(もっとも、「二人は○○である」と決定的に描写してしまうと、おそらくこのような絶妙な危うさは産まれないし、そもそも彼らの安定しているようで常に不安定な関係性を定義付けようとするのはナンセンスである。)

 

こういうときにイメージソングという、有り難いものがある。

 

無印最終話で総士を失った後の一騎の気持ちが綴られた『FORTUNES』と、対になるアンサーソングとして、フェストゥムの側へ行った総士の気持ちが綴られた『蒼穹』がある。

 総士がいなくて辛いと叫び倒す『FORTUNES』に対して、『蒼穹』はそれを宥めるように、大丈夫、必ず還る、と強い意志で約束する歌詞となっている。

 

以下、『蒼穹』の一番盛り上がる部分の一節である。

 

 

怯えるのは人間らしくて

愛おしくて抱き締めたくなる

 

 

 

 

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「僕はお前がいる場所へ帰る。必ず」

「待っている。俺は……ずっと……」

(劇場版 HEAVEN AND EARTH)

 

 

皆城総士真壁一騎の怯える姿を見て、愛おしくて抱きしめたくなるらしい。

とするのはいささか早計かもしれないが、現に本編中で彼が抱きしめているのは一騎である。

他の可能性を考えて、彼が抱きしめることがあるとすれば、乙姫か織姫か一騎くらいである。

そしてここでは「人間らしくて」と言っていることから、その対象は一騎に絞られる。

そもそもこの物語において「人類―フェストゥム」と「一騎―総士」は対比構造となっている。フェストゥムの側に行った総士から見た「人間」ならば、それは一騎と考えるのが最も自然である。(もちろん島の皆を抱きしめたい(=守りたい)、の意もあると思う。)

 

彼は一騎だけに自分の苦しみを見せ、一緒に居て欲しいと甘えつつも、彼のそばからすぐ消えたりして、一騎を情緒不安定にさせ、後ろめたさを感じつつそんな一騎に寄り添って安心させることで、精神が安定する方の人間なのである。

 

皆城総士、さんざん一騎に「お前って本当に不器用だな」と言わせるくせに、この時からこういうことはできるのである。

 

 

この時も、向かい側の椅子に座って(クロッシングを通して)話していたのに、わざわざ立ち上がって歩いて一騎の後ろに回り込んで抱きしめるという、動きのあるパフォーマンスを見せている。

たまたま手の届く距離に居たからなどではなく、抱きしめようという明確な意思のもと、彼を抱きしめたのである。

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よく考えれば、そもそも一騎の無意識下でクロッシングを行い、一騎の身体に申し訳なくもギリギリの負担をかけながら、二年もの間、彼の心に侵入し、繋がりを保ち続けた行為そのものが、恐ろしく器用なものではないだろうか。

 プライバシー侵害どころではない。一騎でなかったら重大な人権侵害である。

 

 

思うに、彼はおそらく器用すぎて、一周回って不器用なのである。 

本当に不器用な人間は、戦死した仲間の悪い噂を流して墓を汚し、何もなかったように後で友人と墓参りに来て掃除したりとか、そんなことはできない。

器用に色々考えた結果の、不器用なのである。

 

 

 

 

どうだろう。

 

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総士から距離を縮めたように見えてこないだろうか。

不安定な一騎を安心させるため、そして自分を安定させるため。

 

 

 

 

無理なこじつけなのは重々承知している。

だがこれだけ言わせて欲しい。

 

 

 

 

 

ここまで来たら彼にも蒼穹歌わせるんだよな

キン●レコード……

 

 

    

                             ―終―